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“好き”からはじまるビジネスのカタチ

2022/01/18

―仕事は趣味で、趣味は仕事ー

それがカタチになれば、どれだけ充実した毎日が過ごせるのだろう。
京都を代表するカフェ「セカンドハウス」や住宅街から5分の非日常空間「ZAC山荘」をはじめ、フレンチレストランやレンタル別荘、カバン工房といった多種多様な業態をプロデュースするザックエンタープライズの足達光男氏。
「自分の人生は、自分でしか生きられない。だからどう充実させていくかは、自身の選択と気持ち次第」と、好きなこと、興味のあることに挑戦し、成功をおさめている一人だ。
2022年1月にレンタル別荘「マキノ山荘」をリニューアルオープンさせるなど、年齢を重ねても精力的に取り組まれる足達氏に、成功の秘訣を聞いてみた。

“日常”と“非日常”が融合する場所。

木目を貴重とした外観。背後には緑が広がり、まるでアメリカの片田舎にトリップしたかのようーー。このアメリカ輸入セルフビルドの建物が、足達氏のリアル別荘でもある「マキノ別荘」だ。
「併設された陶芸小屋では信楽焼き体験ができる(※現在、準備中)し、バルコニーではバーベキューを楽しむことができる。ラグジュアリーを極めたジャグジーもいい。ここを訪れると、自然の中でゆるりと、“非日常な体験”をしてもらえるはずだ」。
その反面、ガスレンジやコンロ、ホットプレートなどの設備は整っているから、火起こしなど本格的なアウトドアが苦手な人も楽しめるし、設営や後片付けも食器類を洗うだけ。“日常”と“非日常”のいいとこどりをした新感覚の施設だ。
「レンタル別荘を運営するのは、昔からの夢だった。自然やアウトドアが好きで、信州のペンションに足繁く通っていたこともある。マキノは都心部からのアクセスもいいし、自然豊かな場所であるにもかかわらず、田舎すぎず便利な地域だと感じている」。
場所の魅力と施設の魅力。「ここならやっていける」という自信が足達氏にはあった。それは、これまで培ってきた直感力や経営センスに裏打ちされたものだった。

はじまりは、高校時代に出会ったジャズ。

若い頃は、舞鶴市の造船工場でサラリーマンをしていた足達氏。しかし、古典的なキャリアデザインは性に合わず、28歳のときに脱サラし、念願のジャズ喫茶「ZAC BARAN」を平安神宮界隈にオープンさせた。
「ジャズとの出会いは高校時代。友人の家で試験勉強をしていたときに、友人のお兄さんからレコードを聴かせてもらったのがきっかけだった。特にMJQの『朝日のようにさわやかに』がお気に入りで、「これほどまでに、魂が揺さぶられる音楽があるんだ」と感動したのを今でも覚えている」。
サラリーマン時代も、会社勤めをしながらジャズコンサートを企画。舞鶴から2時間かけて京都の街に繰り出し、ジャズ喫茶をめぐるのが楽しみだったという足達氏。その時代から京都は「学生の街」として知られ、食やアート、音楽といったサブカルチャーが愛好される、豊かな文化的土壌があった。特に左京区は、京大の学生や外国からの留学生・旅行者であふれ、ジャズ喫茶が熊野神社だけでも6件あり、深夜まで活況を呈していた。
「当時は京都市営地下鉄が開通しておらず、学生たちは河原町駅から出町柳駅までを歩いて通学していた。通学路上にある「ZAC BARAN」は、学生たちがホッとひと息付く場所として、飛ぶ鳥を落とす勢いで繁盛。オープンして2年も経たないうちに、二号店をつくる話が持ち上がった。その二号店というのが、「セカンドハウス出町店」。京都では珍しかった和風スパゲッティやアメリカンスタイルのケーキを提供したところ、女子学生たちに大受けし、どんどん店舗が拡充していった」。

“ワクワク”が最大のアウトプット。

店舗を作る際に、足達氏が大切にしていることがある。それは“好き”をカタチにすることだ。例えば、「セカンドハウス」の内装がアメリカンテイストなのは、足達氏がジャズやアイビースタイルなどのアメリカ文化に精通していたから。好きなテイストを取り入れるとより一層店舗への愛着が湧き、同じ感性を持った人たちが集まるコミュニティが生まれる。
「じゃあなぜ、東洞院店は京町家なのか? と突っ込みが入るかもしれないが、ヒントにしたのはブルックリンの街開発。ブルックリンは、歴史的建造物を活用しクールな文化として打ち出した「SOHO」で成功を収めていた。京都も、せっかく街中に町家が点在しているのだから、新しい風を吹き込んだら若者で賑わうのではないか…という仮設を立てたのが始まりだった」。
足達氏同様に、奥様も好きなことは突き詰めるタイプ。東洞院店のエントランスにディスプレイされる個性的なカバンも、彼女がデザインしたものだ。
「家具も作るし、ハーブ作りや陶芸にも興味がある。特に妻は、ハンドクラフトが得意だから、「セカンドハウス」を立ち上げたときは、クッションやエプロンも二人で手作りした。ものづくりが好きじゃなかったら、「セカンドハウス」はなかったし、そもそもオーナー事業自体もやってなかったかもしれない(笑)」。
それくらい一つひとつの店舗に愛があり、こだわりがあり。だからこそ業態は違っても、足達氏のカラーが垣間見える。

「マキノ山荘」は“好き”が詰まった集大成。

そして、たくさんの人との出会い、様々なタイミングが重なり、2021年にリニューアルオープンをした「マキノ山荘」。新たに加わった別館は、本館同様にアーリーアメリカンテイストで、1階がグランドピアノが置かれたプチホール、2階は陶芸やリース作りなどのイベントを行う工房になっている。そう、ここは足達氏の“好き”を突き詰めた城だ。
「これまでの人生を振り返ってみると、昔から、自分はあれこれやってみたい人間なんだなと思った。目標があって、それに対してやるべきことをブレークダウンしていくタイプの人と、いろいろやって振り返ったら何かしら自分の道を歩んでいた、というタイプがいるが、私は完全に後者。なので、色々なことに手をつけて、ときには失敗もして「本当にこれでいいのか」と悩んだ時期もあったが、そのときの気持ちに素直になってやりたいことをやってきた(笑)」。
今年で73歳。残された余生をゆっくり過ごしたいという反面、まだまだ第一線でチャレンジし続けたいという思いもある。
「グランピング施設も作りたいし、久しぶりに「セカンドハウス」の新店舗も出店したい。やりたいことは山ほどある」。
好きなことをカタチにし続けるために、足達氏は今日も明日を見つめている。


■マキノ山荘
https://www.makinosansou.com/

■ZAC山荘
http://www.secondhouse.co.jp/zacsanso/

■セカンドハウス
http://www.secondhouse.co.jp/s_h/